「みりっこい」さやいんげん

今年の夏は、ずっと憧れていた家でのごはん作りを、思う存分満喫することができました。


ただ、長雨の影響で、野菜があまりにも高くてびっくりです。この夏ほど、価格が安定しているもやしやきのこを買ったことはありません。


大好きな夏野菜「さやいんげん」が高くて買えません。野菜売り場で手に取っては元に戻し、でもやっぱり食べたいと思ってまた手に取り「ダメダメ、こんなにちょっとでこの値段、ありえない」とまた元に戻す。完全に不審者です。


8月の休業中、店でこの不満をブツブツと漏らしていたら、「そう思って、さやいんげんの種、屋上菜園にまいておきました」とスーシェフ香田。完璧なるカリスマ主夫状態です。



フランス修業中、さやいんげんはレストランのメニューで使うほか、まかないでもよく登場していました。日本では、特に野菜は色や歯ごたえを大切にしますが、フランス人は概ね、歯ごたえのあるものが苦手で、やわらかいものが好きなように感じました。


さやいんげんも、色が落ちるほどよく火を通します。最初は「あーあ、あんなにクタクタにゆでちゃって……」と思いました。周囲に日本語が通じないのをいいことに、シェフ金子と「日本人の美学としてありえなくない?」「あんなぶんず色(どうやら故郷福島の方言で「くすんだ紫色」のことらしい)にしちゃダメだよ!」と、言いたい放題。


ところが実際食べてみると、さやいんげん独特のキュッキュッとした食感が消え、やわらかくて甘くて、なんともおいしい!「さやいんげんはゆですぎくらいがおいしいんだ!」と目からウロコが落ちる思いで、以来、しっかりゆでる習慣が身につきました。


さやいんげんを扱うたびに、我々がフランスで食べた、細くてやわらかいさやいんげんの話をするのを聞いていたスーシェフ香田。9月のある日、まだ大きくなりきっていないさやいんげんを収穫し、十分にゆでて「お味見を!」と。


それを食べて私、思わず「うわー! みりっこい!」と言ってしまいました。


「みりっこい」とは、私の地元静岡の方言で、みずみずしくてやわらかい野菜などを表現するときに使います。採れたての筍をすぐゆでて調理したものを「みりっこくておいしい!」と言うのは、早春の決まり文句。反面、「あの人、まだみりっこい」と言うと、未熟で幼いという意味になります。


標準語では当てはまる表現がなく、思わず言ってしまったのですが、この言葉、スーシェフ香田の「お気に入り」のカゴに入ってしまった模様。


秋になるとメニューに登場する「サンマの燻製の炙りと焼きナスのテリーヌ」。今年は早めに収穫してやわらかくゆでた、たっぷりのさやいんげんを添えて、「このみりっこさ、いかがでしょう?」とやたらと「みりっこい」を連発します。


静岡弁のプロ(!)の私から見れば、香田の「みりっこい」の使い方、まだまだみりっこいですが……「香田君、このさやいんげん、みりっこくてとってもおいしいです!」

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