コロナ禍に見舞われる前の自分自身を今思い返すと、精神的にも時間的にもいっぱいいっぱいで、懐かしいフランス修業時代のことや店をオープンした時の意気込みなど、思い出すことはありませんでした。あまりにも余裕がなさすぎたのです。
コロナという思いも寄らない大きなものが降りかかってきて、我々飲食店をめぐる状況には大変化が起きました。一言で言えば、売り上げの激減です。でも、不謹慎かもしれませんが、不思議と救われた思いがしました。

それまで商売人として、楽をしたり、目一杯働かなかったりすることは怠慢だと思い込んでいて、常に自分たちを追い込んでいました。「働け」と言われたことはあっても「働くな」と言われたのは初めてです。売り上げが落ちても、自分たちのせいじゃない。この事実は皮肉なことに、我々を「売り上げの呪縛」から解き放ち、心底楽にしてくれました。
それまでの私ときたら(根がネガティブなものだから)、自分以外のすべての人が幸せに見えて、自分のことを「雑巾みたい」と思っていました。コロナに振り回されることになる直前には「もしかして私って、雑巾どころかボロ雑巾じゃない?」と真剣に考えていました。
2020年4月に最初の緊急事態宣言が出て休業を余儀なくされ、1週間店を休んだ時、不意にずっと恋い焦がれていた「自分の時間」がやってきました。「私も人間の生活をしていいんだ」としみじみ感動しました。あの時の贅沢で充実した時間の流れは、今でも忘れられません。
この頃から、頭の中の構造に変化が起きました。「自分たちの努力やふんばりではもうどうにもならないのなら、原点に戻って楽しく仕事がしたい」。
思い切って営業スタイルをガラリと変えてみました。経営的には笑ってしまうほどお話にならないけれど、なんとも穏やかな気持ちになりました。

しかし今、またもや4度目の緊急事態宣言で、サンルスーは八方塞がりになってしまいました。せっかくいただいたご予約をお断りするためにエネルギーを費やすことに疲れ、発令後1週間、ありえないはずの「ワインのないサンルスー」をやってみました。
ご来店くださったお客様が、気を遣って一生懸命ノンアルコールドリンクを飲んでくださる姿に、申し訳なくてなんだか涙が出そうになりました。そして「やっぱり違う」と痛感しました。
テイクアウトのお問い合わせも、ありがたいことにたくさんいただきました。にもかかわらず、この夏の暑さでやむなく断念することになりました。
「リセットしよう」。
こんなすごいことを言うのは、悩みのなさそうなシェフ金子に決まっています。サンルスー代表取締役の鶴の一声で、8月22日(日)までをリセットの期間とすることにしました。
店のお掃除と屋上ガーデンのお世話をしっかりやって、がっちり充電します! そして英気を養って、8月末に復活いたします!
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