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悪魔のマカロン

スーシェフ香田、「超」がつく凝り性です。一度スイッチが入るともう止まりません。ここのところのスイッチは「マカロン」です。



お持ち帰り用や食後の小菓子としてお出しするマカロン、毎日毎日、次々と違うものを作り出し、あんまり毎日違うものが登場するので、私を含むサービススタッフが全く覚えきれません。


「これ、何だっけ?」と聞くと「えーっと、何だったかな? 自分でもわかんなくなってきました」…それじゃ、誰にもわかりません。本人曰く、「僕、凝り性なんだけど飽きっぽいんです(それ、知ってます!)。でも、マカロンだけはなぜか飽きないんですよね」。


この猪突猛進ぶり、どう考えても干支は「亥」ですが、聞いてみると「巳」だそう。一方、どう見ても「丑」に間違いないシェフ金子はなぜか「亥」。干支って全くアテにならないとこの連中を見てよくわかりました。


店の重要な役割を果たしているスチームコンベクションオーブンの調子が昨年はずっと悪く(もう20年使っています。寿命ですね)、このマカロンが奇妙奇天烈な形に仕上がってしまいました。料理人のプライドから「お店では出せない」と言って、ほとんどが「まかない」に回ってくるのですが、あまりの量に自家消費が全く追いつきません。


オーブンは機材の中で最も高額で、業者さんに発注してもこのご時勢でずっと在庫切れの状態。オーブン代を捻出する係の私としては、半ばホッとしながらオーブンに「もうちょっと頑張れ!」と檄を飛ばす一方で、営業に差し障りがあるので早く新しいものが入ってくれないと困る…全く複雑な心境でした。


作っても作ってもちゃんと出来てくれないうちのマカロンですが、不格好なだけで、食べてみると味に損傷はありません。そこで「Bonne idée!」いいことを思いつきました。


何が入っているかわからないイビツなマカロンを「闇マカロン」として格安で売り出すことにしたのです。格安なら、とスーシェフ香田も納得しました。


作戦として、インスタグラムでお伝えする他、ほぼ全てのお客様が行くことになるトイレに張り紙を置きました。トイレでは用を足す以外他にやることがないので、お客様の目にとまるったらありません。びっくりするほど「闇マカロン」、買っていただきました。


あるお客様は「すみません、悪魔のマカロン、ください!」…闇が知らないうちに悪魔になっていました。


年も押し迫って、やっと新しいオーブンが入ると、面白いようにきれいなマカロンが出来上がります。よって「闇マカロン」はほとんど出なくなりました。「闇マカロン」ヘビーユーザーのあるお客様に至っては「オーブンが新しくならなきゃよかった」とか言い出す始末です。


ここでスーシェフ香田の性格が爆発します。おせちご予約の際にマカロンを売り出したときには、オーブンがいつ入るかわからなかったので、弱気の設定で20セット限定でしたが、案の定、走り出したら止まらなくなって急に数を増やすこととなり、結果、予定の3倍ほどのご注文をいただきました。


「こんなにたくさんあって、時給1万円じゃないと割が合わない!」と、闇バイトみたいなことを言ってブーブー文句を言うおせち詰め込み部隊の面々。店内はマカロンだらけでした。


実際、手前味噌であることは十分承知の上で、サンルスーのマカロン、とても美味しいです。あとはスーシェフ香田が、マカロンに飽きないことを祈るばかりです。

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