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新人君の○ー○ー○○○ギー

サンルスーの新人君のお話です。


スーシェフ香田が以前働いていたお店で、少しの間一緒に働いていた大田、昨年5月から縁あってサンルスーを時々手伝ってくれておりました。11月からは正式にサンルスーのスタッフとして加わり、朝一番に来て毎日の労働に励んでおります。


彼はちょっとおもしろい経歴の持ち主で、一度料理人をやめて自営で塗装業を数年やっておりました。もともと料理の世界に戻るつもりでいたものの、離れてみて料理の仕事の素晴らしさを余計に痛感したそうで、本人曰く「誰でもできることじゃなくて、大変で困難なことをやりたい」と思ったとのこと。


そう聞いてみると、一度外からこの仕事を見てみるのも良い経験なのかもしれません。料理人をやめていく人はたくさんいるけれど、「やっぱり料理をやりたい」と舞い戻ってくるケースは、私の知る限り本当に稀なこと。


それくらい、割に合わない仕事です。それを考えると、彼はちょっとした「変人」の一人と言えるでしょう。


昨年末、山積みの仕込みに厨房の雰囲気がだんだんピリピリし始めたある日のこと。


朝の仕込みでシェフ金子が、サンルスーの定番メニューであるパテ・ド・カンパーニュの仕込みを配分しようとしたところ、大田はなんだかとても忙しそうで、それどころではなさそうな雰囲気。


その空気を察知したスーシェフ香田が「おい大田、何やってるんだ? そんなことよりパテカン(パテ・ド・カンパーニュのこと)覚えろ!」と先輩らしくかっこいいことを言うと、大田「皆さんに沖縄の味をお届けしようと思って…」。


沖縄出身の彼が、朝イチから真剣に仕込んでいたのは「サーターアンダギー」でした。ナンクルナイサー。「いいよ、パテカンは俺がやるよ」と、仕込みよりサーターアンダギーに軍配を上げる、寛大なシェフ金子。


本場仕込みの熱々のサーターアンダギーは本当においしく、年末の緊張感いっぱいの空気がやわらぎました。


数日後の朝の仕込み中、「大田、またアレ、作ってよ」と言い出すスーシェフ香田。「あれ? そんなことよりパテカン覚えた方がいいんじゃなかったっけ?」と、いちいち重箱の隅をつつきたくなる私です。


「そうだな、アンダーサータギーは揚げたてが最高だな」と、平然と名前を間違えるシェフ金子。シェフに向かって指摘できないスーシェフ香田と大田に代わり、仕方なく私が訂正しておきました。「サーターアンダギーです!」


今年になって、気持ちに余裕ができ始めると、大田が堂々とサーターアンダギーを作ってくれました。


皆で熱々を頬張っていると、「カーサ・アンダギーってやっぱり旨いな」と、またしても間違えるシェフ金子。カーサって、お家の揚げ物か? これはサーターアンダギーです!



新人大田、皆にいじられながら、日々飄々と労働をこなしております。彼には壮大な夢があって、近い将来、ワーキングホリデーを利用してフランスへ料理修業に行くことを志しており、ただ今、休日にはフランス語のレッスンを受けております。フランスへ行っても、皆にサーターアンダギーを振舞って、フランス人の心をわしづかみにしてほしいものです。


昨今は人手不足や物価高騰などもあり、出来るだけ無駄や手間を省いて効率よく、という方向に向いているように感じるけれど、我々の仕事はひたすら真逆な気がします。


「おいしいもの」を作り出す仕事ながら、決して「おいしい仕事」ではない料理人の世界。


でも、若い料理人が楽なことではなく、あえて困難を選択して頑張る、そんな心意気を大切に、応援したいと思っています。


「最終的にちゃんとした基本と技術を身につけている人間は強い」…これ、無口なシェフ金子が料理人たちによく言っている言葉です。

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