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30年を振り返って

更新日:2 日前

6月18日、サン ル スーは満30歳となり、31年目に入ることになりました。


つい最近、あるおなじみのお客様が「30年店を続けるって並大抵じゃない。すごいことですよ」としみじみおっしゃってくださいました。こういう温かいねぎらいの言葉が、私の心の支えになっています。


でも我々にとっては本当にあっという間で、ハッと気づいたら30年、これが正直な気持ちです。


サン ル スーが20周年の頃、たまたまある食の雑誌に取材していただいたことがあり、シェフ金子が「30年はありませんから」と話していたのが記事として載っています。


『dancyu』2016年1月号より
『dancyu』2016年1月号より

ところがどっこい、あれからもう10年経って、30年を迎えてしまいました。「あれ?もしかして私たち、まだやってるんじゃない?」という感じです。


改めて30年を振り返ると、1995年、西荻窪駅から歩くと15分以上もかかる場所に、夫婦2人でサン ル スーをオープンしました。


1995年6月18日オープン。東京女子大の近く、駅から徒歩15分以上、席数は12席でした
1995年6月18日オープン。東京女子大の近く、駅から徒歩15分以上、席数は12席でした

フランスに2人で修業の旅に出て、すかんぴん(サン ル スー)になるまで食べ歩きをして、日本に帰国。「何も無いゼロからのスタートだから、これ以上下がることはない。上がるだけ」という気持ちから、店の名前をサン ル スー(一文無し)としました。


8年後の2003年に「ここで出来ることはすべてやった。もっといろんなことをやってみたい」と考えるようになり、現在の店に移ってきました。


憧れの建築家の先生に内装をお願いする夢が叶いました
憧れの建築家の先生に内装をお願いする夢が叶いました

ディナーだけの営業でしたが、スタッフが増えてくると「これはランチも営業しなくちゃ成り立たないぞ」と気づきます。スタッフに相談したところ、当時のスーシェフだった荒井が「ランチを営業して、何か悪いことありますか? 良いことしかないんじゃないですか?」と言ってくれました。


この言葉が我々の背中を押してくれて、ランチ営業をスタートすることになりました。満を持してスタートしたランチ営業の初日は…お客様ゼロでした! そしてあんなにカッコいいことを言った荒井は、ランチの初日、大遅刻。ランチの開始時間に間に合いませんでした!


元スーシェフの二人。左が荒井、右が上原。どちらも現在は自分の店を頑張ってくれていて、とても嬉しい。現在は “同志” の気持ち
元スーシェフの二人。左が荒井、右が上原。どちらも現在は自分の店を頑張ってくれていて、とても嬉しい。現在は “同志” の気持ち

しばらくして、ランチが定着した頃のこと。ランチの営業中に私が倉庫にあるものを取りに行ったところ、スタッフの上原が、後から倉庫に別のあるものを取りに来て、私に「忙しくてすごく楽しいです!」と言って、バタバタと厨房に戻って行きました。


シェフ金子がよく口にする「あいつら、本当にいい奴らだな」という口癖の所以です。


しかし、ランチ営業が定着すればするほど、どんどん心に余裕が無くなっていき、目の前のことをこなすのに精一杯になりました。常に仕込みが間に合わず、休憩もほとんど取れなくて、毎日ピリピリしていました。自分たちの想像をはるかに超える忙しさでした。


当時を思い起こすと、ちょっと心がすさんでいた気もします。何より、店を始めるにあたっての自分たちが思い描いていたイメージからどんどんかけ離れていくのが、怖くてたまりませんでした。



それでもありがたいことにお客様が離れることもなく、今でも通い続けてくださるサン ル スーのお客様に、申し訳ない気持ちと共に、感謝の気持ちでいっぱいになります。


丑三つ(うしみつ)時に「ああ、あと3時間したら起きなくちゃ」と毎日絶望しながら床に就く日々が続きました。自分の中では「暗黒の時代」と呼んでいます。私自身、「もう限界」と思っていた頃でした。


そんな日々を劇的に変えたのは、「コロナ」の存在です。


正直、営業的には大打撃を受けたわけですが、「これで人間の生活ができる」と救われた思いがしました。神様が「もうさんざん働いた。休め、自分の時間を作れ」と言っているような気がしたのです。


コロナ禍で慣れないテイクアウト営業を始めた時、「サン ル スーをつぶしちゃいけない」と、本当にたくさんのお客様がテイクアウトをご利用くださり、そして顔を見せてくださいました。


二十数年店をやってきて、この時ほどお客様のありがたみを痛感したことはありません。そういう意味でも、コロナ禍で経験したことは本当に大きかったと思っています。


テイクアウトメニューは2020年春から2021年初夏まで1年以上続きました
テイクアウトメニューは2020年春から2021年初夏まで1年以上続きました

我々の仕事は、お客様に幸せな気持ちになっていただくことです。


「どうにかなる! 毎日を楽しく笑って過ごしたい!」と一大決心をして、ランチ営業をやめ、15時スタートのヘンテコなディナー営業の形を作りました。


ランチをやめても労働時間は大して変わりませんでしたが、何より心に余裕ができて、仕込みに十分な時間をかけることができるようになりました。コロナには散々な目に遭いましたが、がむしゃらにやってきた中で大きな転機になったのは間違いありません。


30年前も今も、サン ル スーは小さな個人店です。「みんなの店」というよりも、お客様が「私の店」と思っていただけるような、そして幸せを感じていただけるような店になれたらいいな、と今日も考えています。


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西荻窪(東京都杉並区)のフランス料理店 ビストロ サン ル スー

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