大好きな軽井沢へ買い出し旅行に出かけるのに、絶好の季節になってきました。
軽井沢から少し離れたところに、時々行くお気に入りのコーヒー専門店があります。そこでゆっくりコーヒーを飲むのが、日々セカセカと労働している我々にとって何よりの贅沢です。
ある日、コーヒーのお供に選んだのが、コーヒー風味のブランマンジェでした。ブランマンジェとはご存じの通り、フランス語で「白い食べ物(blanc-manger)」という意味で、一言でいえば、柔らかいミルクゼリー。フランスではとても有名なデザートです。
サンルスーにも、杏仁風味やココナツ風味などのブランマンジェが長いことメニューにありました。しかし、シェフ金子の一存で、なんだかんだと取ってつけたような理由をくっつけ、ここのところブランマンジェは姿を消しておりました。
軽井沢のコーヒー屋さんでこのブランマンジェを食べて「コーヒーの香りがちゃんとしてるのにちゃんと白い!」と感激し、お店の方に聞いてみたら「豆のまま牛乳に一晩漬け込んでいる」とのこと。
なるほど! 目からウロコが落ちる思いで、早速こちらでコーヒー豆を買い求め、店のマカナイで試しに作ってみたら、なんともいい感じ! もう何年も前のことです。
ただ、その頃は昼と夜の営業でてんてこ舞いで、自分の目の前のことをこなすので皆、毎日が精一杯。コーヒー風味のブランマンジェがメニューに載ることはありませんでした。精神的に余裕のなかったあの頃の自分たちを心から反省しています。残ったコーヒー豆はずーっとワインセラーの片隅で眠っていて、皆知っているくせに、気づかぬふりをしていました。
サンルスーにとって6月は、1年のうちで特にこれというイベントも祭日もなく、いちばん心に余裕のできる時。少し前にスーシェフ香田が、皆で気づかぬふりをしていたコーヒー豆を引っ張り出してきて、日の目を見ることのなかったコーヒー風味のブランマンジェを再現し、マカナイで出してくれました。なぜか豆の保存状態もよく、いい感じです。
そして、このたび数年ぶりに、メニューに載せることが叶いました。最初、コーヒー屋さんで感じたイメージを生かして「コーヒー風味なのにブランマンジェ」と命名させていただきました。私のようなお酒呑みにもしっくりくるデザートです。
このご時世で値上げと欠品が相次ぐ中、月初めに届く請求書に「マジですか?」と目の玉が飛び出る思いをしているところですが、もう、これはこういうものを受けとめるしかないと観念しております。
ただ、「私たち、もしかして、変?」と感じながらも、この欠品だらけ状態にもちょっとした快感が生じてきました。食材の欠乏により、次々と消えていくメニューの穴埋めに、今あるもので何かを作り出す心地よさです。
当たり前のようにある食材が、デン!とメニューの中で幅をきかせていると、新しいメニューの入り込む隙がなかなかありません。シェフ金子、スーシェフ香田も、気持ちに余裕はあるけれど、いつもの食材が乏しい今こそ、腕の見せどころというものです。
「さすがプロ! うん、いい感じ!」とおだてまくって料理人どもを鼓舞し、ブランマンジェを筆頭に新メニューが数品、加わってまいりました。
幸いにもホワイトアスパラの入荷が安定しているので、「ホワイトアスパラと新玉ねぎのテリーヌ」、「ホワイトアスパラの温製」、テイクアウトメニューで人気だった「魚介のパイ包み焼き」、古典的なソースを使った「仔羊のコンフィと豚足のパネ ソースグリビッシュ」、誠にクラシックなデザート「クレープ・シュゼット」の面々です。
春の人気者「いちごづくしのプティポ」に代わって登場するのは、青梅のムースやコンポート、青じそとレモンのシャーベットなどを取り合わせた「梅雨時のプティポ」。
試作三昧の日々を送る、6月のサンルスーなのでした。
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