師走の深夜の訪問に
- vivstudio
- 12 分前
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只今、一年で一番の正念場を迎えております。年末は誰でもそうなのかもしれませんが、時間が足りなさすぎ、いろんなことが集中しすぎの最難関。最大の山場は「おせち作り」です。
普段の仕事とは別物なので、とても緊張するし、仕事量も尋常ではなく、シェフ金子が「金子愚痴光」に改名するのもこの時期で、聞こえないふりをするのも大変です。ピリピリしているので怖いから近寄らないようにしています。
シェフ金子に揚げせんべい、スーシェフ香田にカントリーマアム、、新人君の安昼(アンビルと読みます)にブラックサンダー。それぞれの好物を完備し、奮起させております。皆、休日返上で頑張っております。

もう十年も前、師走の慌ただしいある日のことでした。日付の変わった深夜、営業後の片付けをしているサン ル スーへ、不意にお馴染みのお客様、Mさんがいらっしゃいました。
「いつもサン ル スーのおせちを楽しみにいただいているけど、娘のSが急病になってしまって、とても難しい病なので、今年はおせちを買えなくてすみません」とおっしゃって、帰っていかれました。
いつもは穏やかなMさんの表情から、事の重大さが理解できました。Sちゃんはご両親と共に小学生の頃からサン ル スーに通ってくださっているお客様。ちょっとはにかみ屋さんで、食べることが大好きな、我々にとって親戚の女の子みたいな、可愛くて仕方のない存在です。
大切な一人娘の一大事。はっきり言って、サン ル スーのおせちどころではありません。でもそんな誠実すぎるMさんの行動があまりにもありがたく、そしてその律儀さが余計に悲しくてなりませんでした。「Sちゃん、頑張れ!」と、皆で祈るしかありませんでした。
入院中も退院してからも、ご両親のサポートする姿は本当に頭の下がるものでした。快復後に、普段口数の少ないMさんの奥様が「たとえ元に戻らなくても、命さえ助かってくれればいいと思った」とおっしゃったのを聞いて「親ってすごいな」と心底感動したのを覚えています。
約7ヶ月後、Sちゃんは無事、サン ル スーに復帰してくれました。
「待ってたよ!Sちゃん!」のメッセージをつけたお祝いのケーキに、顔を赤らめて喜んでくれたその顔があまりにも可愛くて、忘れられません。
そして当時スーシェフだった鈴木(現在はパリで自分の店をオープンし、頑張ってくれています)が、本当に気合を入れてSちゃんのためにケーキを作っていた姿も、また忘れられません。
そしてその後「快気祝い」と書かれた虎屋の羊羹をMさんご一家からいただいて、それまでも大好きだった虎屋の羊羹は、それ以来、我々にとってさらに特別なものになりました。
Sちゃんは現在、立派な社会人となって、毎日忙しくも充実した日々を送っています。そして相変わらずご家族で食事に来てくださって、我々に癒しをくださいます。
おせち作りも、そんなMさんご一家をはじめとする皆様が、楽しみにしてくださっていると思うと頑張れるのです。シェフ金子にも念仏のようにそう言って鼓舞しております。
自らに大変なことが起きた時、人様に対する心配りが欠落しがちですが、自分がいっぱいいっぱいになってしまった時、いつもMさんの師走の深夜の訪問を思い出し、自らを戒めています。
こんなにいい経験をさせてもらったから、私、お店をやめられないのです。
皆々様、今年も本当にありがとうございました。どうぞ良いお年をお迎えください。そして月並みではございますが、来年も相変わらずよろしくお願いします!






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