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ポトフはいかが?

更新日:3月17日

もう十数年も前、たまたま気まぐれにポトフをメニューに載せたら、風邪気味だったお客様が、「サン ル スーのポトフを食べて風邪が吹き飛んだ」とおっしゃったとのこと。


それを聞いた別のお客様が「おたくのポトフは風邪が治るんだって?」と、ポトフを食べにいらっしゃいました。その時、「何ですって? それは本当ですか? お客様!」と思いましたが、今思うと、何かその気持ち、わかります。


フランス修業中やフランスへの旅行時、「ああ、胃が疲れる。油やバターやクリームを使わない、クリアなものが食べたい」としばしば思いました。



実際、フランスのバターや生クリームは文句なく高品質で、最初は感動したものなのですが、日本の「だし文化」で育った身としては、毎日となるとだんだん苦痛になってきます。そんな時、パリでお気に入りの中華料理店やベトナム料理店に飛び込んで、何とか胃袋を落ち着かせたものです。 やはり私、生粋のアジア人です。


今はもうなくなってしまったけれど、パリに大好きなビストロがあり、ある時、メニューにポトフを見つけて注文してみました。本当に胃が癒されるのを実感しました。あの時の、体に染み渡るような感覚は今でも忘れません。


そんなポトフの話をしていたら、スーシェフ香田が「ポトフをメニューに載せたい」と言い出しました。


「ねえ、香田君、ポトフについてどう思う?」と尋ねると、「えーっとですね、うーん……長い歴史を感じますね」と、取ってつけたような「とりあえず感満載」の答えが返ってきました。


ま、いいか! 久々にメニューに載ることになりました。昨年末のことです。


しかしですよ。正直言って他のメニューに比べ、「ポトフ」のご注文はあまりかんばしくありません。「今の季節のお勧めは?」と聞かれるたびにポトフをお勧めするのですが、お客様の答えはほぼ同じ。「ポトフは家でも作れるから……」とおっしゃいます。


「ノンノンノン、わかってませんね、お客様」と心の中で人差し指を横に振っておりますが、食べるのもお金を払うのもお客様、素直に私は引き下がるわけです。


シェフ金子曰く、「お客様は、例えば肉料理を選ぶ時『自分で作れないから』とローストものを選ぶ傾向があるけれど、本当に難しいのは煮込み料理。手間もかかるしね」とよく言っています。本当かどうかわからないけれど、どうやら煮込み料理は、料理人の技術が出るものらしい。


実際、ポトフを召し上がったお客様は「体の隅々までスープが染み渡る」と唸り、そしてどういうわけか「体の内側から元気になった」と同じセリフをおっしゃって帰っていかれます。有難いです。


最近は時短がもてはやされ、何だかよく知らないけど「タイパ」とかいう言葉を価値あるように言う風潮があります。そういう意味ではポトフって、巷で言われる「タイパの低い」料理です。でも、じっくり手間と時間をかけて作られた、こんな普通の料理があったっていいじゃないのと思ってしまうわけです。


とかなんとかエラそうに御託を並べておりますが、世の中は静かに着々と春めいてまいりました。


昨年末からポトフ販促のため、ブログを書こうと意気込んだものの、アナログ人間の代表である私に降りかかるデジタルの嵐に振り回されて、たくさんの時間を取られ、もう春になってしまったではありませんか! 普通ならメニューからポトフが外れる季節です。


「ねえ、悪いけど、ポトフのブログ書いてるから、ポトフ、もうちょっとやってくれない?」と低姿勢で頼む私。「別にいいよ。じゃ、もう少しやろう」とシェフ金子。


普段は全くこだわりもへったくれもないように見受けられる性格にしばしば怒りを覚える私ですが、今回は、この寛大(!)なる性格に心から感謝するばかりです!

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西荻窪(東京都杉並区)のフランス料理店 ビストロ サン ル スー

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