シェフ金子がはるか昔にちょっとだけ柔道をかじっていたことがあるため思い入れが強く、柔道の国際試合は必ず観るならわしです。東京オリンピックの阿部兄妹の同日金メダル獲得、心から感動しました。何かで見たのですが、妹の詩さんのおふくろの味は「ラタトゥイユ」なんだそう。私が子供の頃は「ラタトゥイユ」という言葉はおろか、その存在すら知る由もありませんでした。時代を感じます。
メニューの構成上、ここ最近は作っていませんが、サンルスーにもラタトゥイユがあります。私はもしかしたらシェフ金子が作る料理の中で、これがいちばん好きかもしれません。お店ではお出ししたことのない組み合わせですが、このラタトゥイユをタブレ(ミント風味のクスクスサラダ)に添えて食べるのが大好きです。
あるフランス人のお客様は「私は今までずっと、自分の作るラタトゥイユがいちばんおいしいと思ってた。私のよりおいしいラタトゥイユを初めて食べた」と興奮しておっしゃっていました。
ただ、その作り方ときたら、私から見るとあまりにも手間がかかって大変です。シェフ金子曰く「ラタトゥイユを作るのは、他の料理に比べたら手はこんでいない方。でも野菜料理でお金をいただくって本当に難しくて大変なこと」なんだそう。なるほど、確かにその通りです。
私の最大のストレス解消法は、家でのごはん作り。でも、自宅ではフランス料理っぽいものを作ることはほとんどありません。当たり前ですが、プロに向かって作るのはアラだらけスキだらけだし、食べる側だって気の毒です。
店で毎日毎日、料理人たちが手間ひまかけて作り出すものを見ていると「やってらんないな、かなうわけないね」と半ばあきれて、その反動から私が作るものは、プロが卒倒してしまいそうな作り方になってしまいました。
私のラタトゥイユときたら、トマトは皮もむかず種も取らず、ザクザクに切った玉ねぎやら、なす、ズッキーニ、ピーマン、パプリカなどの夏野菜を厚手の鍋にギュウギュウに押し込み、味つけは塩のみ。オリーブ油もにんにくも香草も入れません。野菜のもつ水分だけで煮込む乱暴な料理です。
でもなぜかシェフ金子、これが大好きです。「夏になるとあんた(私です)が必ず作る『野菜のごった煮』、体に優しくて本当に旨い!」ほめていただくのはうれしいのですが、これ、ラタトゥイユなんですけど……。
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