シェフ金子、本名は金子淑光ですが、毎年年末になると金子愚痴光に改名し、私が近くにいる時だけ、グチグチと泣き言を言うのが恒例です。しかしこの異常な暑さから、今年は早くも夏から愚痴光に改名してしまいました。
厨房内で一番暑い位置にいるスーシェフ香田をはじめ、他の厨房スタッフはひたすら黙々と仕事をしているのに、一人で「暑い暑い」と連発するので「暑いのは皆同じ!」と言うと「俺が一番暑いんだよ!」…いったい何を基準にしているのかわかりません。
気の毒なのはお客様。私だったらカウンターに座って食事をしている時、目の前にいる大将がため息をついて「暑い暑い」と繰り返すなんて、そんな店まっぴらごめんです。
ある日、カウンターで愚痴光の前に座ったお客様に、帰り際「うちの旦那さんの前でごめんなさい」と言うと、「シェフが暑い暑いとおっしゃってて。厨房は暑くて本当に大変ですね」と優しい言葉をかけてくださいました。
それを聞いて奮起した私。「ねぇちょっと、せめて営業中だけでも、暑いとかヒーヒー言うのやめてくれない?」と言うと、「うるせえ、タコ!」…えっ? この私がタコですって? そんなこと言われなくても、私の耳にはもうとっくにタコができています。
ある日、やはり暑い暑いと言い続けるシェフ金子に「私、あんたのお母さんじゃないから、どうにもしてやれない!」と言うと、偶然それを耳にしたお客様に「マダム、この暑さはシェフのお母さんでも、どうにもできないよ」と言われてしまいました。営業中の大人気ない言動、反省しております。
どういうわけか、私とすれ違う時だけ「あー、仕込みが多すぎて追いつかない」とつぶやく金子愚痴光。我慢強い私にも限界ってものがあります。堪忍袋の緒が切れて「言っとくけど、メニューを増やしてるのは、私じゃなくてあんたなんだからね!」と言ってやると「減らしたら、あんたに何言われるかわからない!」と反撃を開始してきました。普段は話しかけても、聞こえてないのか聞こえないふりをしているのか知りませんが、全くの無反応なのに。
しかし先日の日曜日、珍しく暑いと愚痴らず、なんだかずいぶんご機嫌がいいので、おかしいと思っていると「仕事が終わったら、サンルスー釣りクラブ、城ヶ島に行ってきます!」と、知らないうちにたった3人でクラブを結成して、深夜、上機嫌で出かけていきました。
結論から言うと、釣果ゼロのうえ、しょっぱなからスーシェフ香田の竿は折れるし、おまけに私のことをタコ呼ばわりした罰が当たったのか、愚痴光ったらスピード違反で捕まるし、いったい何しに行ったのでしょう?
それなのに「いやー自然と一体になるって、やっぱりいいな! めちゃくちゃ楽しかった!」…全く、男という生き物は…。
皆様、しょうもない裏話におつき合いいただき、ありがとうございました。本当にくだらないことは百も承知で書かせていただきましたが、おかげさまで幾分すっきりしました。暑い暑い夏ももうすぐ終わり。9月のサンルスー、秋のメニューでお待ちしております。
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