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ゆったり、たっぷり、栗のプティポ

サンルスーで、デザートの王様として君臨するのが「栗のプティポ」です。



「もう始まりましたか?」とお客様のお問い合わせが最も多い、そしてご予約時「キープ」のご指定の最も多い、年間を通しての一番人気のデザートです。


もう20年近くも前のこと、あるお客様が、このプティポをたいそう気に入られて「栗のプティポの会、やります!」とおっしゃって帰っていきました。


お世辞くらいに思っていたら、後日「20名以上集めたので、貸し切りで プティポの会、お願いします!」とご連絡をいただき、「お客様、ひょっとしてマジだったんですか?」と、慌ててプティポの器であるライオンの顔のついたスープボウルを人数分揃えたことがありました。


この栗のプティポ、実は私も大好きです。栗のプリンに栗入りのクレームシャンティ、栗のグラッセ、栗とエスプレッソのアイスクリームをのせ、スープ仕立てにしたもので、「これはまさしく大人のマロンパフェだ」と思っています。



でも、お客様が秋になると楽しみに待っていてくださるのにもかかわらず、栗のプティポの季節になると、私はいつも鬱屈した気持ちになっていました。


現在は営業スタイルを変えましたが、コロナ前まではランチ営業をしていました。これがサンルスーにとって、それはそれは大変なことで、いつも時間と仕込みに追われる日々でした。皆、まかないもゆっくり食べられず、休憩時間もろくに取れずに夜の営業に突入するという毎日。サンルスーのスタッフ、よく文句のひとつも言わずに頑張ってくれたとつくづく思います。


栗のプティポには、栗の皮むきという重要な仕事があり、これがなかなか厄介な作業です。ある年は、この栗の皮むきをする時間がどうにも取れず、たくさんのお問い合わせをいただいたにもかかわらず、なんだかんだと言い訳をして、栗のプティポ不在となりました。


また、ある年の秋にひとりのスタッフが盲腸になり、近所の病院に入院したことがありました。その時、シェフ金子を上回る能天気でちゃっかり者の当時のスーシェフ(現在は独立し、池尻大橋で「リアン」というお店をやっています)が、


「シェフ! 栗の皮むき、入院中のS君にやってもらいましょう! どうせ寝てるだけでヒマを持て余しているはずですから」と、ちゃっかりにも程があることを言い出す始末で、今にもゆでた栗の入ったザルを病院に持って行きそうな勢いでした。


さすがにそれはしませんでしたが、それくらい、我々は追い詰められていました。


何かと性格の暗い私は「仕込みが追いつかないから、サンルスーのデザートの王様に登場をご辞退いただくなんて、何か違うんじゃないか? 食べ物屋って、お客様が楽しく幸せになる場所なのに、いつも時間に追われてピリピリしてて、自分たちが楽しく仕事できないなんて、何かおかしい。こんなことしててサンルスーは大丈夫なのか…」と、常に不安で仕方がありませんでした。シェフ金子に「そんなに何でも杓子定規に考えるなよ」といつもたしなめられていました。


2020年、コロナ禍に巻き込まれ、仕事というものについてじっくり考えることになりました。「どうせやるなら、楽しく気持ちに余裕を持って仕事がしたい」…思い切ってランチ営業をやめ、その時間を夜の営業の仕込みにたっぷりと使えるようになりました。


現在、厨房で料理人たちがせっせと栗の皮むき作業に励んでおります。例年になく、数多くの栗のプティポをお出しできるようになりました。


やっぱりお客様に「おいしい」と言っていただくためには、自分たちが心にゆとりを持っていたい。


私事で全くもって勝手ながら、私にとって栗のプティポを穏やかな気持ちでお出しできるか否かは、自分の心の余裕の判断基準であるのです。


とかなんとか先程から偉そうに御託を述べておりますが、私、サンルスーで栗の皮むき作業、一度もしたことありません。

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