盟友の門出

前話から続く

我々の西荻の盟友「29」は、果たして店舗をどこに構えるのか……。コロナ禍の真っ只中、思うように動けず、本当に大変だったと思います。でも逆に身動きが取れないからこそ、たっぷりと考える時間があったのかもしれません。


彼らが店を明け渡した後、一緒にゴハンを食べながら、これからの「29」について話をした夜。別れてから「あの二人、もう西荻には戻ってこないんじゃないかな?」とシェフ金子。寂しいけど、私もそう感じていました。


結局二人は、ご主人(シェフ竹内)の故郷である群馬県川場村を、新しい門出の場所に選びました。シェフ竹内の中では「いずれ故郷でお店を」という気持ちが漠然とあったようで、それが突如早まっただけのことなのかもしれません。


「私の地元、西荻窪に10年もらったので、10年はシェフの地元に返したい」と奥様のマダムである舞ちゃん。じーん……。「二人とも、偉いな」としみじみ感動しました。


この地は何より自然が豊かで、食材の宝庫。この選択を知った時、「半分羨ましくて、半分心配」、これが正直な気持ちでした。


豊かな自然の中で生み出される魅力的な食材を料理する、多くの料理人が憧れることです。実際、あえて田舎を選んで活動している料理人も増えています。でもやはり、交通の便の決して良くない地での営業は、集客の問題が常につきまといます。我々の半分の心配は、このことなのです。


さて、これはよくあることですが、店の工事が予定よりかなり遅れ、10月の初め、待ちに待った「29」からの開店のお知らせが届きました。オープンは10月20日です! さあ、早速客になろうと思ったら、ナント! 定休日が全く同じ! 愕然としてしまいました。


しかしながら、「Bonne idée !」我ながらいい考えが浮かびました。ちょうど軽井沢に野菜などの買い出しに行く予定だったので、ちょいと寄り道をして、川場村襲撃を思いついたわけです。


オープン10日前と言ったら、とにかく猫の手も借りたいほど、いちばん忙しい時。もしこれが逆の立場だったら、「同業者として、そこらへんはわきまえるべきだよね!」と憤慨すること請け合いです。迷惑なのはわかっていたけど、矢も盾もたまらず、お店と、二人の顔を見せてもらいに行ってきました。



2年半ぶりに会った二人は、なぜか不思議と久しぶりの感じがしなくて、こんなに図々しい我々に嫌な顔ひとつしません。相変わらず謙虚で繊細で一生懸命で、ほわっとした空気を漂わせていて、やっぱり西荻時代の「29」のままでした。


ものすごく心配していたけど、素敵すぎるお店と変わらない二人の顔を見て「あ!絶対、大丈夫!」と確信しました。絶対に「わざわざ」行きたくなるお店です。



10月20日、無事にオープンを迎え、西荻時代の「29」と「サン ル スー」の共通のお客様が続々と川場村の「29」に行っていらして、口を揃えて「すごく良かった!」という話を聞いて、思わず「ありがとう!」と手を握りそうになりました。全く関係はないけれど、心は姉妹店です。遠くに行っても応援してくださるお客様……ありがたい存在です。


そんな川場村の「29」から、それはそれは素晴らしいビーツが届きました。あんなに寂しがったり、偉そうに心配したりしていたクセに、「いやー、いいところで店を持ってくれた!」とゲンキンに大喜びした次第です。今、ひと口スープでお出ししているのですが、皆さん、殊の外喜んでくださっています。


おめでとう、本当におめでとう! 西荻の盟友は「うちの裏」から100km以上離れた川場村に行ってしまったけれど、やっぱり盟友に変わりはありません。



〈VENTI NOVE〉

群馬県利根郡川場村谷地2593-1




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