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手書きメニューの謎

サンルスーのオープン当初から通ってくださっているおなじみのお客様に、あるとき尋ねられました。


「どうしてサンルスーのメニューは手書きなんですか?」


はい、良い質問をしてくださいました。それにはちゃんとわけがあるのです。



1990年代の初めに、夫婦でフランスに修業の旅に出ました。休日の楽しみはレストランめぐりです。当時のレストランのメニューは、多くはそのレストランのマダムの手書きでした。お世辞にも達筆とは言えない字で、堂々と(!)メニューが書かれていました。


「それにしても下手な字だね。これじゃ、なんて書いてあるかわからないよね」と、周りに聞かれても日本語が通じないのをいいことに、当時は修業中の料理人であったシェフ金子と、自分たちの下手な字を棚に上げて、勝手なことを言っていました。


でも、その読みづらい字を読解するのがまるで謎をひも解くようで、楽しくて仕方がありませんでした。


食事中にお店のシェフとマダムが、各テーブルにあいさつに回ってくれます。「あんなにきれいな顔で素敵な格好してるのに、字は汚いよね」とさらに勝手なことを言い合う我々。でも、逆にそんなことにとても人間味を感じて「なんか、すごくいいな」としみじみ思ったものです。


1995年にサンルスーをオープンしたとき、まずこだわったのがこの手書きメニューです。自慢じゃないけど私の字も、全然上手じゃありません。でも「フランスのレストランのマダムたちのあの字(今思えば、あれはフランス人独特の書き文字体だったのだと思います)より、私の方がまだまし」という、完全に履き違えた妙な自信から、開店当初から今まで、ずっと手書きメニューを通しています。


もちろん、お客様にとって印刷の字の方がきれいで読みやすいし、私自身の手間も全然違うけれど、あの難解な謎を解くような楽しさを思い出すと、どうしてもこの手書きメニュー、やめられないのです。


サンルスーにお越しくださるお客様、メニューの私の字を謎解きだと思って、これからもどうぞ辛抱強く読解してみてください。

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