グラスで、おいしいワインを
- 11 分前
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今年の夏は、熊本の地震や千葉の豪雨をはじめとして、世界中で起こっている様々な自然災害など、悲しいことが多すぎます。
そして、これも悲しいことに、世の中のすべてのものの値上がりも、勢いづいて止まりません。我々の仕事にとって不可欠の「ワイン」を取り巻く環境も激変してしまいました。

まずはその価格! 入荷するたびに当然のように値上げされていて、数年前の1.5倍なんていうのは今や当たり前のことです。気候変動、円安、輸送費の上昇などの様々な要因が絡み合って、とんでもないことになってしまいました。
「便乗値上げしてるんじゃない?」とすっかり疑い深くなってしまっています。レストランでワインを選ぶときも「えーーーっ? なんでこれがこんなに高いわけ?」と毎回驚いてしまいます。仕事柄、自分が現実を知っているにも関わらず、です。
そして味わい! 激しい気候変動によって、ワインの味も大きく変化しています。我々がこよなく愛するブルゴーニュの赤、ピノ・ノワールなど全くの別物になってしまいました。
「ブルゴーニュのピノ・ノワールって、繊細できちんと酸があるのが特権でしょ? なんでこんなに濃くて酸もなくなっちゃうわけ?」「これじゃあ俺が苦手とするシラーみたいだよ」と、シェフ金子と悪口ばかり言っています。重ね重ね、仕事で自分たちが現況をわかっているにも関わらず、です。
その価格にも味にも全く納得ができず、「ねぇ、なんだかワインが嫌いになりそうじゃない?」とか不謹慎なことを言い出すようになってしまいました。
サン ル スーでは月替わりでグラスワインを白・赤各5種類ずつ置いているのですが、その状況も少し変わってきました。長年通ってくださっているお客様が、年齢とともにボトルで飲めなくなっていらして、「ボトルで飲めなくなったので、グラスでもおいしいワインが飲みたい」というお声を聞くようになりました。
今までは、毎月用意するグラスワインはお客様に負担をかけない価格帯を心がけてきましたが、「なるほど」と妙に納得して、上等ワインなるものをリストに加えてみました。思いのほか、皆さんご注文くださるので私がいちばん驚いています。お客様の何気ない一言って、我々にとってとても良いヒントになるものです。
「俺たちもさ、レストランで好きなワインを、自分にとって高いと思うお金を出しても、ここ数年、全然納得いかない。だったらグラスでおいしいヤツをいくつか飲めるといいなって最近思うんだよ。好みじゃなくても、グラスだったら1杯我慢すればいいからね。ほら、だから上等ワインを置くべきなんだよ!」
とか、自分が考え出したわけでもないのに、あたかも自分が発案したように言うこの性格、本当にどうにかしてほしいものです。

というわけで、現在サン ル スーでのグラスワインは白・赤各4種、オレンジ・ロゼ各1種、上等ワインも白・赤各2種と、計14種類になってしまいました。

「ロスが出たら原価率が上がる」と心配する私に「だったら、俺たちが飲めばいいんだよ。皆、ワインを勉強してるからいろいろ飲みたいだろうし」と、悩み知らずながらもたまにはいいことをいうシェフ金子。
そんなこんなで、時間と気持ちに余裕のあるマカナイの時間に、その月のグラスワインを飲んでは「このワインは何の料理に合うか」など皆偉そうに語り、にわか評論家になっております。マカナイにワイン、ま、フランスのスタイルですね。
我々が昨今のワインに絶望しかかっている中、ワインに目覚め始めた行動派の若手料理人・菅原が「今度の休みの日、ちょっと横浜のワイナリーに見学に行ってきます」と言い出し、それに凝り性故、すっかりワインコレクターになってしまったスーシェフ香田もその気になり、ついでに私も久しぶりに行ってみようかなという気になったのです。

暑さが苦手で電車に乗りたがらないシェフ金子をその気にさせるため「ワイナリーの後は中華街に行こう」と人参をぶら下げて、猛暑の中、横浜にあるワイナリーを見学させてもらいました。
いろいろなご苦労や制約がある中、信念を持って淡々とワイン造りをされている女性オーナーの話を伺い、「良い悪いを言うのは簡単だけど、頑張っている人がいる!」と、すぐくじけグセのある自らを反省し、とても励まされた気持ちになりました。
その後はすっかりご機嫌になり、一同、中華街で打ち上げです。とても良い休日になりました。
ワイン造りをする人たちも、気候変動に振り回されながらも抗うことなく、あきらめずに力を尽くして、努力していらっしゃる。変わってしまったワインに文句ばかり言っていないで、造り手さんたちに感謝を込めて……「乾杯!」





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